骨片と骨格標本の作り方
カイメンの同定には生きているときの色彩や形、固さ、弾力などの情報も必要ですが、なんといっても重要なのは体を支える骨片の種類や大きさ、そしてその配列(骨格構造)を知ることです。ここでは海綿質繊維で体を支えるものを除いて、骨片を持つグループについて、その取り出し方とそれが形作る骨格構造の観察の仕方を説明します。
1. 骨片の取り出し方
骨片を取り出して標本を作るには、海綿質を溶かす必要がありますが、そのためには入手しやすいキッチンハイターやパイプクリーナーを使うと便利です。以下それらを用いた骨片標本作りの手順です。
注:カイメンを溶かすこれらの溶液が目に入ると危険なので、ゴーグルなどを付けて目を護る注意も必要でしょう。
①カイメンの表皮(表面層または外層)とその下の層(内層)では骨片の種類や大きさが異なることがあるので、表皮から一部と表皮下の内層部分から一部をそれぞれピンセットで取り出し、別々の標本にします。
②カイメンの骨片はごく微量あれば良いので、取り出したわずかな塊をスライドグラスに載せ、キッチンハイターかパイプクリーナーを数滴滴下して海綿質を溶かし、骨片をばらばらにします。
③時間が経って骨片がほぐれて来たらティッシュペーパーかキムワイプなどで作ったこよりを使って溶解に用いた液体を取り除きます。
④ピペットを用いて骨片の上に水道水を数滴滴下します。これは水洗いと呼ばれる作業になります。
⑤骨片に垂らした水道水を再びティッシュペーパーかキムワイプで取り除きます。この作業を数回繰り返し溶解に用いた薬品の濃度を下げて行きます。ティッシュペーパーで水分を取り除く際、骨片をティッシュペーパーなどに吸い込んでしまわないよう静かに水分を取り除きます。
⑥水洗いが終わったら標本にスライドグラスをかけ、生物顕微鏡で骨片の種類を観察します。
⑦骨片の種類ごとにその大きさの測定を行います。ヒストグラムが描けるよう、少なくとも25個くらいは測定しましょう。大きさの測定は長さと幅で行います。
カイメンの種類によっては、キッチンハイターやパイプクリーナーでほぐれてくれないものがあります。例えばClathria 属などはなかなかほぐれてくれません。
そのようなときは、一般の方には入手が困難かも知れませんが硝酸を用いるのがひとつの方法です。
ただし、石灰海綿にこの方法は使えません。石灰海綿の骨片は石灰質なので、酸に溶けてなくなってしまいます。
硝酸を使った骨片標本の作り方は以下の通りです。
注:万が一硝酸を使っていてそれが皮膚に着いたときは多量の水で洗い流してください。
①試験管にカイメンの標本を少量取る。
②試験管に取ったカイメンが隠れるかそれよりやや多めの量の硝酸を ピペットなどを用いて試験管に入れます。
③試験管に熱を加えます。
注:家庭のガスコンロで熱するだけで十分です。ただし急激に熱すると激しく反応が起こり、試験管から硝酸が飛び出すことがあるので、加熱は慎重に行います。また、このとき二酸化窒素が発生するので吸い込まないよう注意が必要です。十分な換気を行いましょう。
④熱を加えてカイメンが溶けて見えなくなったことを確かめてから試験管に水道水を注ぎ、遠心分離器にかけるか数時間放置して骨片を沈殿させます(経験上放置時間は 1 時間くらいで良い)。
⑤骨片が沈殿したら上澄みを捨て、再び水道水を加えて④と同様の方法で再び骨片を沈殿させます。
⑥⑤の作業を数回(4~5 回)繰り返し、硝酸を除去できたと判断したら試験管の底に沈殿した骨片をピペットなどで吸い上げてスライドグラスに載せ観察を行います。
注:硝酸が残っていると生物顕微鏡の対物レンズを傷めることがあるので注意が必要です。
2. 骨格標本の作り方
①実体顕微鏡などの下で、メスやカミソリの刃などを用いてカイメンを薄く切り出します。
(慣れればかなり薄く切り出すことも可能になります。)
②薄く切り出した標本の水分をティッシュペーパーかキムワイプなどで除き、スライドグラスに載せてクローブオイルを数滴垂らします。
③この状態で半日から1日くらい置いて標本が透明になるのを待ちます。
注:ときどき様子を見ながら時間は調整します。
④透過性が確保できたと判断したら標本にカバーグラスを掛けて生物顕微鏡で観察を行います。
この方法の欠点は、クローブオイルに漬けた標本を再び固定に用いたアルコールに戻すと透過性が失われ、骨格構造の観察が出来なくなってしまうことです。
観察するには再びクローブオイルに漬け直さなければなりません。